全身性エリテマトーデス(SLE)
2015/03/29
全身性エリテマトーデス(SLE)
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus)とは、全身の臓器に原因不明の炎症が起こる自己免疫疾患の一種で、膠原病の一種として分類される。
機序
SLEは自己免疫疾患の一つで、病因についてはいまだ不明な点が多い。遺伝的因子の上にある種のウイルス感染が起こることで、免疫異常が生じて自己抗体の産生や免疫複合体の生成が、組織に沈着することで組織障害が生じると考えられている。
SLEは、全身の諸臓器を侵し、再燃と寛快とをくり返す慢性炎症性疾患。女性が男性の5~10倍多く、10代後半から30代の妊娠可能年齢に集中している。
症状
いろいろな症状を伴って発症し、多くがいくつかの臓器症状をもって始まる。また、発熱等の全身症状を伴うことも重要。
1.全身症状
発熱、全身倦怠感、易疲労性、体重減少
2.関節症状
関節痛、関節炎、関節運動障害(関節の変形は、ほとんどおこらない)
3.皮膚、粘膜症状
蝶形紅斑、手指・爪郭周囲・手掌・足蹠の紅斑(左右対称の傾向)日光過敏症、脱毛、レイノー現象、口腔粘膜潰瘍
4.腎障害
蛋白尿、細胞性円柱、ネフローゼ症候群(腎不全に進展すると予後不良)
5.精神・神経症状
精神異常、痙攣、脳血管障害、四肢のしびれ、知覚異常、片麻痺
6.その他の臓器症状
肺・胸膜病変(間質性肺炎・胸膜炎)、心臓病変(心膜炎・心筋炎)、腹部病変(腹膜炎・膵炎・脾腫)、リンパ節病変(リンパ節腫張)筋肉病変(筋炎)など
原因
原因については、今のところ分かっていない。現在の仮説では、複数の遺伝因子と環境因子の双方が関連する多因子遺伝疾患と考えられている。糖尿病や関節リウマチなどと比較すると遺伝因子の影響は強いと思われる。
検査
1.血液検査(白血球、血小板の減少、貧血、血清中γ-グロブリンの増加、赤沈の亢進、抗核抗体陽性、LE細胞試験陽性、血清補体価の低下)
2.梅毒血清反応が陽性を示すことがある
3.皮膚、腎、リンパ節生検
4.アメリカリウマチ協会で発表されたSLE診断基準(1982年改定)の11項目中4項目以上存在すれば診断される
治療
1.非ステロイド性抗炎症薬
軽度の多発性関節炎、微熱、筋痛を示す症例に使用する
2.ステロイドホルモン剤
活動期に投与される。障害臓器と炎症の活動性の程度によって初回投与量を決め、症状の改善と共に減量していく。
副作用とそのチェックポイントは以下の通り
・糖尿病(多尿、尿糖、高血糖)
・皮膚症状(多毛、脱毛、皮膚線条)
・脂肪沈着(満月様顔貌、体重増加、食欲亢進)
・電解質異常(高血糖、浮腫)
・消化性潰瘍(胃痛、胸やけ、吐血、下血)
・精神症状(不安、興奮、憂鬱、多幸、不眠)
3.免疫抑制剤
活動期に投与される。副作用で特に問題となるのは、骨髄機能抑制、易感染、出血性膀胱である。
予後
10数年前まではきわめて予後の悪い難病と考えられてきたが、診断や治療法の進歩により生存率も上がっている。生涯に渡る生活コントロールを必要とする疾患であることには変わりなく、患者にとって社会的、精神的ダメージは大きい。
死亡原因としては、初期に(疾患そのもの、あるいは治療による)免疫不全による感染症が多い。後期には虚血性心疾患による死亡が増えており、ステロイドによる副作用のひとつとして考えられる。
看護
アセスメントの視点
1.活動、再燃期においては様々な症状を呈するため、全身状態を観察し、患者個人個人の現在の苦痛は何かを確かめる。また、生命の予後に直結するような合併症の徴候の有無を観察することが重要。患者を取り巻く人たちの援助を求め、自らも社会復帰に向けて自己管理していけるように教育していく。
2..ボディーイメ-ジの変化や、神経障害からくる精神症状に対する援助も必要であり、日頃から患者が話しやすいような雰囲気をつくる。
3. 治療に使用されるステロイド剤や免疫抑制剤には、副作用があることを把握し、その症状や徴候がないかを観察する。また、内服が指示通り守られているかを確認する。
看護目標
1. 疾患について正しく認識でき、治療に積極的に参加できる
2.苦痛の軽減を図り、日常生活が自立できる
3.ストレス解消の方法がわかり、治療が継続できる
看護問題
#1.レイノ-症状に関連した手のしびれと痛み
・血管の発作性収縮により冷気、冷水にあたると手指が蒼白となる(レイノ-現象)
O-1.皮膚の色、しびれ、冷感、痛みの程度
2.レイノーの持続時間と部位、回数
3.誘発原因:冷水、寒冷、精神不安
4.サーモグラフィーの結果
T-1.室温を20℃以上に保つ
2.換気は窓を少しずつ開け、急激な温度変化は避ける
3.処置時は室温、掛け物を調節する
4.検査、処置、回診は前もって知らせる
5.入院時、日当たりの良い部屋を考慮
6,プロスタグランディン製剤の点滴の管理
E-1.パンフレットで日常生活指導を行う
2.レイノーノートを記載するよう指導する
#2.非感染性の炎症による発熱と、それに伴う全身症状による苦痛
・急性の炎症症状
・体力の消耗による抵抗力の減退
O-1.全身倦怠感、脱力感、発熱の有無・程度・持続時間・熱型
2.発熱時の随伴症状:咳、喀痰、排泄状態など
3.関節痛、筋肉痛、疼痛の部位、持続時間、頻度、痛みの種類(自発、圧痛)
4.血圧、心拍数、脈拍数
5.食事の摂取量、体重の推移
6.与薬時間と熱型との関連
7.検査データ:WBC,CRP,ESR,抗核抗体、補体:CH50,C3,C4
T-1.ステロイドホルモン剤等服薬の確認
2.心身の安静が保持できるような環境整備
3.保温に留意する
4.運動制限がある場合は、ADLの援助をする
5.身体の清潔:清拭、寝衣交換、イソジンガ-グル口腔洗浄、含嗽施行
6,指示による解熱剤を投与すると共にその効果を確認する、冷罨法
7.疾患の活動性によるものであるため、治療により症状が軽減することを説明し安心させる
8.栄養価の高い食品摂取を勧め、体力の増強に努める
E-1.指示された安静度を守るよう指導する
2.抵抗力が減退しているときは感染を受けやすいため感染予防について指導する
#3.皮膚症状による外見上の変化に対するコンプレックス
・赤血球、血小板、リンパ球現象による末梢血の炎症
・血管炎としての皮膚の損傷
・紅斑→鱗屑状皮疹→萎縮→斑痕
・血管の発作性収縮
・皮膚を日光にさらすと皮膚症状が増強する
・皮膚変化の出現部位が衣類で被えない
O-1.皮膚変化の部位、種類(紅斑、蝶形紅斑、脱毛、潰瘍、爪郭周囲や手掌、発疹)それに伴う疼痛
2.増悪の誘因
3.疾患の受けとめ方
4.精神状態
5.日光過敏症
T-1.直射日光を避けるために窓側のベットは避ける
2.潰瘍形成部位の消毒と薬剤の塗布
3.コミュニケーションを深め、患者の疾患に対する不安を知る
E-1.疾患について説明する
2.日常生活指導
1)石鹸、シャンプーは刺激の少ないものを使用する
2)ヘアブラシは毛足の丸いものを使用し、過度の刺激を避ける
3)直射日光を避ける
4)冷水を使用しない。手袋着用し寒冷を避け保温に努める
5)皮膚を清潔にする
6)皮膚のマッサージなど血行循環を良くする
7)皮膚に傷をつくらない
8)きつい靴を履かない
9)深爪をしない
#4.中枢神経系ル-プスによる精神症状
・不安
・療養の長期化
・症状の再発
・社会的役割の喪失
・性格傾向
・審美観
・将来への絶望観
・ステロイド剤の大量長期にわたる使用による外観上の変化
O-1.表情、言動
2.生活背景
3.幻視、幻覚、妄想
4.他の患者との人間関係
5.自覚症状:頭痛、倦怠感、気分不快、不安感など
6.睡眠状態
7.外観上の変化に対する患者の受けとめ方(言葉による表現、表情、動作、態度)
8.疾患に対する理解度、慢性的な経過についての受けとめ方
9.精神的ストレスの有無と程度
10.食欲、食事摂取状況
11.活動範囲、対人関係
12.家庭内の役割に対する患者の意識
13.社会的役割に対する患者の意識
14.キ-パ-ソンの有無と患者との関係
15.サポ-トシステムの状況
16.将来についての考え方
T-1.患者の話を聞く態度を取る(受け持ちNs中心に)
2.医師の指示で鎮静剤、睡眠剤を与薬する
3.夜間、巡視時に所在を確認する
4.突然興奮状態になったり、感情が不安定なことが多いため、患者を一人にせず、常に観察する
5.ベッド柵を用いるなど、危険の防止に努める
6.ステロイド剤が確実に服用されるよう確認する
7.治療は長期を要するため、副作用の出現に注意し、精神面の援助に配慮する
8.家族との会話を多くもてるように配慮し、家族、患者が信頼する友人などからの励まし、勇気づけをしてもらう
9.自殺を避ける(身辺に刃物を置かない、窓の開閉に制限を加える、家族の付添い配慮)
10.ストレス、不安、悩みについて相談相手となり、ストレス解消法を一緒に考える
E-1.疾患についての知識が持てるよう、時間をかけて説明する
2.精神症状は一時的であることを説明し家族や周囲の人たちの不安、動揺を軽減する
3.家族の疾患についての理解、協力を得られるよう指導する
#5.中枢神経系ル-プスによる昏睡状態・神経症状
・免疫異常から自己抗体の産生、免疫複合体の生成が起こり、それが中枢神経組織に沈着することで、脳血管障害を起こす。
O-1.検査デ-タ:WBC,CRP,ESR,抗核抗体、補体、CT所見、血液ガス
2.バイタルサイン
3.全身状態:意識レベル、呼吸状態、瞳孔、皮膚の状態、硬直、痙攣、四肢麻痺、脱力
T-1.気道の確保:エアウェイ挿入、肩枕、分泌物の吸引
2.口腔の清潔:義歯の除去、口腔内の保清
3.酸素吸入
4.In-Outバランス:尿量、嘔吐量、補液の管理
5.褥創予防:2時間毎の体位変換、清拭時のマッサ-ジ
#6.心嚢炎、胸膜炎による呼吸困難
・ステロイド剤、免疫抑制剤の長期投与による細菌感染
O-1.検査デ-タ:WBC、CRP、ESR、血液ガス
2.呼吸状態:リズム、深さ、数、努力性呼吸の有無
3.表情、顔色
4.咳嗽、喀痰の量・性状、チアノ-ゼ
5.胸痛、動悸、胸部圧迫感
6.バイタルサイン
7.胸部X-P所見、心電図所見、心エコー所見(心肥大の有無、胸水の有無)
8.水分出納
T-1.安静を保てるような環境を作る
2.安楽な体位の工夫:起坐位、ファ-ラ-位、寝衣による圧迫を避ける
3.温湿布 2~3回/日
4.医師の指示で状態に応じて酸素吸入を行う
5.医師の指示で喀痰を促すためネブライザーによる吸入を行う
E-1.安静度を説明する
2.症状の増悪予防手段の指導をする(含嗽、手指消毒、保温、体の保清)
#7.ループス腎炎またはネフローゼ症候群による腎機能障害
・自己抗体と対応抗体が結合した免疫複合体の糸球体沈着
O-1.尿量、尿回数、尿の性状、比重、尿試験紙
2.嘔気、嘔吐
3.頭痛
4.皮膚の状態:乾燥、浮腫
5.体重
6.意識状態
7.易疲労感
8.検査デ-タ:尿蛋白、血中アルブミン、TP、コレステロール、BUN、クレアチニン、電解質
9.食事療法の必要性の理解度
10.水分出納
T-1.安静、保温の保てる環境を作る
2.飲水制限、飲水チェック
3.食事制限
1)非ネフロ-ゼ:塩分、蛋白の制限
2)ネフロ-ゼ:塩分制限、蛋白質摂取、水分出納
4.感染予防:含嗽、身体の清潔
5.薬剤の正確な与薬
6.腎生検後は飲水を促し、絶対安静を保持する
7.第一尿、第二尿(医師の指示)は潜血反応をチェックする
E-1.以下の指導を行う
1)自覚症状がないときでも、指示された安静度を守る
2)飲水制限、食事制限は、具体的にする(*〓/日までなど)
3)内服薬は自己判断で中止せず、確実に服用する
4)含嗽を施行する
#8.ステロイドホルモン剤内服による副作用の出現
・ステロイド剤の大量長期にわたる使用
O-1.バイタルサイン
2.食事摂取量
3.便の性状、回数、便潜血
4.嘔気、嘔吐、吐血、下血の有無
5.血糖値、飲水量、尿量、口渇の有無
6.呼吸器感染症状、尿路感染症状
7.睡眠状態
8.精神状態:いらいら感、不安
9.表情、言動
10.皮膚症状:多毛、脱毛、皮膚線条
11.脂肪沈着:満月様顔貌、体重増加、食欲亢進
12.電解質異常:高血圧、浮腫
13.骨粗鬆症、易感染症
T-1.医師の指示で抗潰瘍剤の与薬を確実に行う
2.便潜血陽性のときは、食事を変更する
3.吐血、下血があれば絶食とするため、補液を管理し安静を援助する
4.いらいら、不眠が強いときは、医師の指示で安定剤、睡眠剤を与薬する
5.精神状態が不安定になるため、自殺などの危険防止に注意する
6.高血糖であれば、医師の指示で治療食に変更しインスリン血糖下降剤の与薬を行う
7.日ごろより良い人間関係を保ち、微妙な変化をチェックしやすいようにする
E-1.便の色、性状を観察する
2.含嗽の施行
3.高血糖がある場合、糖尿病のパンフレット参照
4.食事指導(バランスのとれた食事、高Ca食品、K制限)
5.適度の運動
6.薬剤の正しい知識
#9.慢性疾患であり、退院後も継続治療と自己管理が必要
・症状の再発
・再燃因子
・家族や周囲の人の協力
O-1.退院後の生活パタ-ン:職業
2.家族の受入れ状態
3.家庭内における患者の占める位置
4.疾患の受けとめ方、理解度
T-1.医師と相談し、退院後の安静度を決定する
2.外来または継続病院での治療内容を把握しておく
E-1.内服の必要性、継続治療の必要性の説明
2.心身の過労を避け、ゆとりのある生活の必要性の説明
3.レイノ-症状のある場合はパンフレットを使用し、寒冷等レイノ-症状増悪の要因を除去することができる
4.皮膚症状増悪予防(皮膚の保護、紫外線など増悪因子を避ける等)の説明
5.食事療法については、塩分制限等、具体的に医師と相談し決定後説明する
6.セルフチェック管理の説明(原因不明の微熱、発熱、全身倦怠感、体重減少、食欲減退、皮膚の状態、口腔粘膜の状態)
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